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フランス欧州ビジネスニュース2025年9月9日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年9月9日(フリー)
放射性廃棄物を燃料とする鉛冷却型小型モジュール炉(SMR)の開発を行っているNewcleo

1.        原子力:新興企業NaareaとNewcleoの挫折、小型原子炉に疑問を投げかける

2.        成長を続ける暗視双眼鏡メーカー、エクソセンス

3.        食品廃棄物、ファストファッション…欧州連合が正式に廃棄物問題に取り組む

4.        ミストラルAI、評価額140億ドルでフランス初のデカコーン企業に

5.        フランスの政情不安がドイツを不安にさせる理由

6.        ヨーロッパに進出する中国自動車メーカーの第二波

7.        電気自動車購入ボーナス:欧州製バッテリーに対する仏政府の意外な支援

8.        防衛:KNDS、2026年に株式上場を目指す

9.        イノベーション、国際性、ケータリング…UHTミルク危機に対するCandiaの対応

10.  フランス企業にとって、デジタル主権という難しい選択


1.       原子力:新興企業NaareaとNewcleoの挫折、小型原子炉に疑問を投げかける


フランス原子力スタートアップ分野は転機を迎えており、Naarea司法再生(redressement judiciaire)入りとNewcleo事業縮小が、その将来に対する不安を浮き彫りにしている。Naarea9月3日に手続き開始となり、短期資金繰りが逼迫し約1,500万ユーロ負債を抱えるが、なお数億ユーロ規模資金調達を交渉中であり、年末までに5,000万~1億ユーロ初回ドローを見込むとしている。9月24日までスポンサー(買い手)の名乗りも受け付ける構えである。同社は2025年の期首に1,000万ユーロの現金を保有していたが、ここ数年で9,000万ユーロ公的補助民間資金を投じ、200人の従業員を部分的失業(部分休業)に置き、供給契約の見直しでコストを抑えつつ、溶融塩(sels fondus)を用いた小型原子炉の開発継続を目指している。
一方のNewcleo1,000人雇用し、そのうち約400人フランス在籍であるが、新規資金が確保できなければ来春資金ショートの恐れがある。今夏には英国拠点の閉鎖に踏み切り、100人超の従業員が影響を受けた。背景には、鉛冷却炉技術に対する英国当局の支援欠如と、現地のプルトニウム在庫へのアクセス不能がある。同社は本社をフランスへ再移転し、使用済み燃料由来物質の活用によるMOX工場計画(ノジャン=シュル=セーヌ近郊)で国家EDFOranoと協議を進める一方、これまでに5億7,000万ユーロ調達し、さらに1億6,000万ユーロLOI(2件)を結んだものの資金は未払出であり、民間投資家フランスからの強いシグナルを待っているとする。
新たなFrance 2030フェーズでは、支援対象は一握りに絞られ、優先審査はJimmyCalogenaに向けられている。両社の原子力ボイラーは、発電向けSMR/AMRより技術成熟度が高いと評価される。Jimmyコスト高を受けて設計の全面見直しを迫られ、ASNRへの設置許可申請2026年3月までに再提出する方針であり、2026年初頭数千万ユーロ規模の資金調達を計画、設計調整が済み次第機器発注を再開する予定である。同時に、エコシステム内では統合の動きも取り沙汰され、溶融塩領域でのStellariaThorizon合併観測があるが、現段階では具体化していないとの反応である。


2.        成長を続ける暗視双眼鏡メーカー、エクソセンス


 国家の拒否権から5年を経て、Photonis2023年Exosensへ改称し、防衛産業の主権を象徴する「トーテム」としてブリーヴ(Brive)工場の能力増強に踏み切った。2020年12月、政府はTeledyneへの売却(Ardianが5億ユーロを想定)に拒否権を行使し、その後2021年2月HLD3億7,000万ユーロで買収した。2022年のウクライナ侵攻以降の軍事予算拡大を追い風に、同社の売上高は3年で2倍超となり2024年3億9,400万ユーロ、利益率30%を達成、2024年6月にパリ上場18億6,000万ユーロ時価総額となった(HLD32%Bpifrance7%)。
需要は、夜間戦闘能力の拡充を狙い、特殊部隊に限らず歩兵まで暗闇(夜間)運用を前提に装備を拡大する動きで加速している。ドイツは最大顧客(売上の20%)で100%装備を目指し、Exosensは9月9日次世代「5G」暗視ゴーグルを発表した。売上の94%を輸出が占め、二交替(2×8)から五交替(5×8)へ移行しラインを増設、ブリーヴで3年110人採用して従業員・派遣合計700人超としたが、需要に追いつかない。製造は複雑で、暗視管1本の完成に約1か月を要し、年間12万本を生産、ThalesTheonが単眼・双眼の双眼鏡に組み上げて各軍に納入する。
能力増強に向け、2027年までに25%の生産拡大を狙って2,000万ユーロを投資し、2026年には1,000㎡の新アトリエをブリーヴに建設する。併せてオランダ・ローデンの拠点に加え、米マサチューセッツで新工場を建設し現地生産US Army参入を図る(現状、米国売上比率2%)。世界シェア43%でL3Elbit Americaを凌ぐ首位として、4~5年100万個の供給、ドローンなど新市場の開拓、売上高10億ユーロの到達を見据えるが、具体的な時期はなお見定め中である。


3.        食品廃棄物、ファストファッション…欧州連合が正式に廃棄物問題に取り組む


 欧州議会は、食品ロス繊維廃棄物に対処する新法を最終採択する見通しである。詳細な措置は示さないが、各国に拘束力のある目標を課し、2030年までに流通外食家庭由来の食品廃棄物を30%加工製造由来を10%削減することを定め、基準期間を2021〜2023年とする。これは当初の40%/20%より後退した妥協であり、食品ロスの50%超を占める家庭への対策として、“ブサイク”野菜の活用、表示の明確化、売れ残りの寄付などのターゲット施策を各国が選択できる一方、農業部門への数値目標なしWWFなどのNGOが批判している。
同法は2008年EU廃棄物指令を改正し、繊維産業を新たに組み込む。汚染者負担(pollueur-payeur)の原則に基づき、生産者は使用済み衣料の回収選別リサイクルを確実に行い、その費用負担を負う。EUはテキスタイル水使用量の大きさを指摘し、綿Tシャツ1枚の製造に2,700リットル淡水2.5年分の飲料水相当)が必要であるとする。標的は中国からの低価格品に支えられたファストファッション(超短命)であり、Sheinはその象徴とみなされている。欧州委員会は2月調査を開始し、違法商品対策の不十分さを疑うとともに、低価格の小口荷物流入を抑えるため1個あたり2ユーロの課税を検討中である。2024年にはこの種の荷物がEU46億個流入(毎秒145個超)し、その91%が中国発であった。平均的な欧州市民は年間130 kg食品廃棄物約15 kg繊維廃棄物を発生させ、繊維分野のリサイクル率は依然としてほぼゼロである。