フランス欧州ビジネスニュース2025年10月8日(フリー)
1. フランスの製薬企業、薬価が上がらなければ新薬は入手困難になる
2. 培養肉、植物由来のハンバーガー…「欧州にはスタートアップはいるが、食卓を制覇する戦略はない」
3. 鉄鋼産業保護計画:欧州鉄鋼業界、数十万人の雇用を節約できると試算
4. 再生可能エネルギー減速の主な被害者である洋上風力発電
5. レアアース:「生産停止のリスクは恒常的」
6. 複数年計画がなければ、再生可能エネルギーが停滞する
7. コーヒーは二酸化炭素排出量を削減し、船で輸送されることが増えている
8. フランスの森に巣食うペレットの戦い
1. フランスの製薬企業、薬価が上がらなければ新薬は入手困難になる
フランスは償還薬の公定価格が欧州で最安水準であり、トランプ政権が米国価格を欧州の最安に連動させる方針を示したことで、新薬の仏上市見送りが現実味を帯びている。G5(Sanofi、Ipsen、Pierre Fabre、bioMérieux など)は、価格を引き上げねば新薬アクセスが失われると警告する。製薬にとって米国は世界売上の45%、フランスは2.8%にすぎず、仏の低価格が米国価格を押し下げる懸念が大きい。対抗策として、仏政府はCEPSが定める表示価格を将来引き上げ、同時に秘密割戻しを厚くしてネット価格は据え置く「戦略的アプローチ」を2025年5月に要請した。表示価格だけが海外に見えるため、米国価格への波及を抑えられる狙いである。実際、米系大手が3製品の仏上市断念に踏み切ったとの証言もある。Pierre Fabreは95%を国内生産しながらNerlynxの仏投入を見送り、償還薬価格はドイツが仏より平均30%高い。抗がん薬Ebvalloでは差が40%に達する。さらに「メイド・イン・フランス」加点は乏しく、2025年の価格再評価は7件、平均上げ幅7.5%にとどまった。アクセス面でも、欧州承認治療の40%が仏では未償還で患者に届かない。G5は、EU承認直後から自由価格で販売し、後日合意価格が低ければ差額精算するドイツ方式の導入を提案する。仏の価格交渉は平均523日を要し遅延が常態化(Ebvalloは独2023年、仏2025年6月)。財源については、IVD(体外診断)の活用拡大(45%で未活用)、高齢者のインフルエンザ接種率向上、服薬遵守の改善(循環器で50%)により、入院平均1.6万ユーロ/件の削減を通じて年130億ユーロの再投資原資を生み得るとの試算が示された。結局、表示価格の見直しと迅速償還、および効率化による財源確保が、フランスの新薬アクセスと産業競争力を同時に守る鍵である。
2. 培養肉、植物由来のハンバーガー…「欧州にはスタートアップはいるが、食卓を制覇する戦略はない」
欧州のフードテックは昆虫食から植物バーガーまでのブームを経て資金の流入→流出と関心低下を経験しており、いまは熟慮と持続性ある実装が要ると分析されている。フランスのGourmeyはバイオリアクターで培養肉を連続生産し高級領域(フォアグラ)を狙い、英国のIvy FarmとHoxton Farmsは培養細胞や実験室由来脂肪を既存ラインに統合する。精密発酵ではBon Vivant(乳たんぱく)やOnego Bio(卵白)が規制承認と産業契約を獲得し、欧州の科学力を示している。投資家は案件を絞って産業化と採算性を重視し、Cargill–Enough、ADM–Meatableの提携やBioBase Europeの伴走が進む一方、コストは依然の壁である。規制面は分かれ、フランス/イタリアは禁止論をちらつかせるのに対し、オランダ/英国はサンドボックスで実証を後押し。将来の食料主権とサプライ網のレジリエンスには、培養肉・精密発酵・植物由来の三位一体が不可欠で、培養肉は栄養培地コスト低減に精密発酵を、食感再現に植物構造を要する。消費者はBeyond Meat後の反動で安全性・価格・味・食感・ブランド親近性と透明性を要求し、オランダの管理下試食や英国のペットフード(Meatly、Bug Bakes)が安全な実験場となる。量産の目標価格は 10ユーロ/㎏未満で、複数の欧州スタートアップがマルチ技術ロードマップで達成を目指す。欧州には才能・スタートアップ・初期の産業連携があるが、統合戦略と政治的意思が不足している。フードテックは主権・競争力・持続性の戦略レバーであり、機を逃せば他地域に将来の食を委ねることになる。
3. 鉄鋼産業保護計画:欧州鉄鋼業界、数十万人の雇用を節約できると試算
欧州委が欧州鉄鋼の衰退に歯止めをかける新たな恒久の保護措置を公表し、業界団体Euroferが全面支持している。中核は輸入クオータを約 50% 削減(域内市場の開放は1割強)し、超過分に関税 25〜50%を課す枠組みで、原産地での割当・関税適用により迂回輸出も封じる。対象は1,800万トン(2013年の輸入水準)で、中国由来の低価格鋼の流入抑制を狙う。背景には、2024年に1万8,000人の直接雇用が消滅し、同産業の就業者は30万人まで縮小、生産は1.56億トン→1.30億トン未満、消費は1.53億→1.28億トンへ落ち込んだ現実がある。効果として、域内メーカーはシェア約5%回復と価格+50ユーロ/トン程度の上振れが見込まれ、稼働率も現状約65%から、採算に必要な80%超へ近づく公算がある。Oddo BHFは炭素鋼でEBITDAが+6〜16%改善すると試算する。波及も大きく、英国では鉄鋼輸出の80%がEU向けのためUK Steelがクオータ確保を要請、Ineosは英ハルで20%の人員削減を発表した。域内でもポーランドではウクライナ産流入で設備休止、仏ではアルセロール・ミタルの600人規模の人員計画に伴う技能流出が課題である。さらにCBAM(炭素国境調整)の見直しが不可欠とされ、これが進めばダンケルクの12億ユーロ投資など脱炭素投資の再開が加速し、グリーン鋼が産業の持続性を支えると期待されている。一方で、計画は加盟国と欧州議会の承認という政治的関門が残り、ドイツでは機械工具など川下が原材料高騰の連鎖を懸念している。全体として、250万人規模の間接雇用を抱える裾野も含めた再建の「第一歩」であり、保護と競争力強化を両立できるかが試金石である。