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フランスビジネスニュース2025年4月16日

フランスビジネスニュース2025年4月16日

  1. 仏政府、水素国家戦略を更新、業界は不満
  2. 政府 、税制の抜け穴を10%削減することが「目標になり得る」ことを示唆
  3. ラクタリス、売上高が300億ドルを突破
  4. 水処理・サウルにとって、アメリカ水市場はこれまで以上に魅力的
  5. 世界の製薬業界32人の経営者からの手紙から欧州委員会に書簡、大量流出の脅威
  6. カルロス・タバレス:ステランティスの株主、解任された社長の最後の巨額給与明細を承認
  7. 水素:ジョン・コッカリル、マクフィーの活動を引き継ぐ候補企業

1.     仏政府、水素国家戦略を更新、業界は不満


フランス政府は、長らく待たれていた水素戦略の改訂版を発表した。生産能力の目標は引き下げられ、2030年までに6.5GWから4.5GW、2035年までに10GWから8GWへと修正された。ただし、政府は依然として複数の象徴的プロジェクトへの支援を継続すると表明しており、「フランス2030」プログラムを通じてすでに150件のプロジェクトが支援されている。水素関連支援の総額は90億ユーロで、そのうち40億ユーロが生産支援に充てられる予定である。
一方で、業界関係者からは依然として批判の声が上がっている。国内需要の低さや支援の遅れ、他国との競争における遅れに加え、McPhy社のように1億1400万ユーロの支援を受けながらも経営危機に瀕している企業や、親会社の人員削減計画により110人中110人の雇用が脅かされているElogen社のような事例がある。政府はこれまでに電解装置工場5カ所に対して6億ユーロを投資している。
また、新たな支援として、Gen-Hy社への約1億ユーロ、ル・アーヴルのYara社肥料工場の脱炭素化に1億5000万ユーロ、TotalEnergiesおよびEngieのMasshyliaプロジェクトに9000万ユーロ以上の支援が発表された。生産能力200MW分の初回分配は今年中に実施される予定である。
一方で、スペインとドイツを結ぶBarMarプロジェクトなどの大規模インフラ構想は優先事項とはされず、欧州レベルでのリーダーシップの欠如が批判されている。最後に、水素が輸送分野、特に海運および航空分野において果たす役割も水素戦略の改訂版に認識されており、水素商用車購入支援のためのプロジェクト公募も予定されている。


2.     政府 、税制の抜け穴を10%削減することが「目標になり得る」ことを示唆


アメリ・ド・モンシャラン公会計担当大臣は、2026年までに400億ユーロの財政赤字を解消するために、増税なしで財源を確保する方針を示した。特に、2026年には税務・社会保障分野の不正対策によって150億ユーロを回収する見込みであり、これは2024年の130億ユーロから増加する計画である。
また、同大臣は租税特別措置(いわゆる「税の抜け道」)の削減も視野に入れている。これらの措置は国家にとって850億ユーロの歳入損失をもたらしており、そのうち10%を削減することで80億ユーロの回収が可能になるとしている。現在存在する467の租税特別措置の中には、100人未満の納税者しか恩恵を受けていないものもある。モンシャラン大臣は、限られた人々に有利な制度よりも、すべての人にとって公平な減税を目指すべきだと強調した。
ただし、育児や高齢者支援など多くの家庭が恩恵を受けている租税特別措置「サービス・ア・ラ・パーソンヌ」に関しては削減の対象外とする考えを示している。
さらに、同大臣は赤字が200億ユーロを超える社会保障制度を「救うためのビッグバン」が必要であると訴えた。特に、新型コロナ以降に病気休暇が25%増加していることが、労働時間におけるドイツとの大きな差となっており、財政負担の一因であると指摘している。


3.     ラクタリス、売上高が300億ドルを突破


2024年、フランスの乳製品大手ラクトリス社は売上高が303億ユーロに達し、前年比2.8%増となった。この結果、ラクトリスは世界の食品業界で第9位に浮上し、ハイネケンを上回る規模となった。 この成長は主に販売量の増加によるものであるが、純利益は16%減の3億5900万ユーロとなった。これは、ベルギーおよびルクセンブルクにおける国際展開に関連した構造に関してフランス税務当局に4億7500万ユーロを支払ったことが一因である。営業利益は14億ユーロでほぼ横ばい、利益率は1.2%である。 同社の主要ブランドであるプレジデント売上30億ユーロを超え、前年比4%増となった。また、ヨーグルトやデザートなどのウルトラ・フレッシュ製品が好調で、売上の16%を占めるに至り、チーズ(39%)や消費用牛乳(22%)に次ぐ柱となっている。 ラクトリスは10億ユーロ超(前年比14%増)を工場設備および環境負荷軽減に投資し、負債を59.8億ユーロから50.4億ユーロに削減した。 また、南アフリカでネスレ・クレモラ、ポルトガルでSequeira & Sequeiraを買収するなど、積極的な企業買収を継続している。アメリカのゼネラル・ミルズのヨーグルト事業買収は2025年後半に完了予定であり、現在は規制当局の承認待ちである。 アメリカ市場は、フランスに次ぐ重要市場となっており、ラクトリスはトランプ前大統領による関税引き上げの懸念に備えている。ただし、同社は米国内11の製造拠点で地産地消モデルを実施しており、影響は限定的であると見ている。それでも、フランス産やイタリア産のチーズは輸出しているため、一定の影響は避けられない見通しである。 


4.     水処理・サウルにとって、アメリカ水市場はこれまで以上に魅力的  


政治的不安定さにもかかわらず、フランス第3位の水処理企業Saur社は、北米市場における産業用および自治体向けの水ビジネスに対する野心を維持している。会長のパトリック・ブレトン氏は、アメリカにおける水関連企業の過大評価の沈静化を好機と見ている。 Saur社は2022年にテネシー州の産業用水処理企業Aquachemを、2023年には建物のグレイウォーター再利用を手がけるNSU社を買収した。NSUは、ニューヨーク・ブルックリンの旧ドミノ製糖工場の再開発プロジェクトにおいて、非食用目的で使用される汚水再利用システムを提供している。 Saur社は、ロサンゼルスの山火事による水管理の失敗を受け、水資源問題が深刻化しているカリフォルニア州を最優先地域とし、水質研究に力を入れるカナダにも注目している。カナダは清浄なイメージがあるが、水質汚染の面ではまだ課題を抱えている。 2024年には、水関連事業の世界403件の買収のうち238件がアメリカで発生しており、企業評価はEBITDAの最大17倍にまで達することもあった。これは無形資産しか持たないサービス企業にも及んでいる。しかし、現在は投資家が慎重になっており、戦略的で割安な買収の機会が生まれているとされる。  


5.     世界の製薬業界32人の経営者からの手紙から欧州委員会に書簡、大量流出の脅威


ファイザー、イーライリリー、アストラゼネカ、サノフィなど、32の大手製薬企業が、米国の関税導入の可能性を受けて、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に書簡を送り、EUに迅速な対策を求めた。対応がなければ、「産業の流出(エグゾドゥス)」が起こると警告している。 ヨーロッパ市場は4億5000万人の人口を抱えているが、世界の医薬品売上の22.7%にとどまり、北米は53.3%を占めている。2004年にはヨーロッパは29.6%を占めていたため、明らかに衰退している。 欧州製薬団体連盟(Efpia)による調査では、18の企業が回答し、今後予定されている1,648億ユーロの投資のうち、1000億ユーロ以上(投資の85%とR&Dの50%)が流出の可能性があるとされた。特に165億ユーロは今後3か月以内に欧州外に移転される可能性がある。 製薬会社は以下の点に不満を示している: ヨーロッパ諸国による薬価の低価格強制。米国では薬価が自由で、平均してフランスの約2倍である; 医薬品への公共支出のうち、22%が企業への財政的徴収となっている; 官僚主義と規制の複雑さ。例えば、フランスでは販売開始まで平均461日かかるが、EU指令では最大180日とされている; 製薬・化粧品業界に限定された環境負担金(マイクロ汚染対策); 知的財産権の保護期間短縮の提案。現在の欧州では最大10年であるが、企業側は米国のような12年の保護を求めている。 書簡は、イノベーションの正当な評価、規制の簡素化、知財保護の強化を求めており、ヨーロッパの競争力と魅力を維持するための抜本的改革を訴えている。  


6.     カルロス・タバレス:ステランティスの株主、解任された社長の最後の巨額給与明細を承認

数多くの批判にもかかわらず、ステランティス社の株主総会は、2024年の経営陣報酬に関する決議を66.9%の賛成で承認した。その中には、前CEOのカルロス・タヴァレス氏の報酬も含まれている。タヴァレス氏は2023年末に退任しており、その理由は経営成績の70%減少および独裁的なマネジメントに対する取締役会の懸念であった。 同氏の2024年の報酬は2,310万ユーロで、これに退職手当200万ユーロ成果ボーナス1,000万ユーロが加算され、総額は3,510万ユーロにのぼる。これは前年の3,650万ユーロから1,300万ユーロの減額ではあるが、グループ業績との乖離が指摘されている。 Allianz Global Investorsをはじめとする投資助言会社は、「業績に見合わない過剰な報酬」であると批判した。フランス経済団体Medefのパトリック・マルタン会長も、「この金額は驚くべきものだ」とコメントし、報酬とガバナンスの問題が再燃した。 ただし、この株主投票には法的拘束力はない。ステランティスの本社はオランダにあり、同国の法律では株主投票は参考意見にすぎない2022年の株主総会でも、タヴァレス氏の報酬は過剰として否決されたが、支給は実行されたという前例がある。


7.     水素:ジョン・コッカリル、マクフィーの活動を引き継ぐ候補企業  


ベルギーの企業ジョン・コッカリル社は、財政難に陥っているフランスの電解装置製造企業マクフィー社の事業買収に名乗りを上げた。買収提案の締切日は5月9日である。マクフィーは昨年6月、フランス初の電解装置工場としてベルフォールにギガファクトリーを開所したが、現在は受注がなくほぼ空の倉庫状態となっている。 2024年の売上予測は大幅に下方修正され、1,100万ユーロに落ち込み、以前の1,800万〜2,200万ユーロの見込みを大きく下回った。オランダで計画された「Djewels」プロジェクト(20メガワットの電解装置で年間3,000トンの水素を生産)の最終決定が遅れたことが、同社の資金繰りをさらに悪化させた主因である。 フランス政府からの1億1,400万ユーロの補助金にもかかわらず、グリーン水素市場の成長は停滞しており、その原因は需要の低迷、高コスト、そして性能保証の欠如である。実際、産業界は性能保証を求めているが、供給側が対応できていないのが現状である。 ジョン・コッカリル社も、フランスのMassylhiaプロジェクト(トタルエナジーズおよびエンジー)において同様の課題に直面しているが、中国子会社である「コッカリル・ジンリ・ハイドロジェン」を通じて得た現地生産能力と実績により、性能保証の提供が可能となりつつある。これは、未だ経験不足な他の欧州競合他社に対して優位に立つ可能性を示している。 今回の動きは、政府が延期を重ねてきた水素国家戦略の見直し発表と重なっており、マクフィーの問題が政府の広報に影響を与える可能性もある。発表は翌日、さらに産業・エネルギー担当副大臣マルク・フェラッチ氏のベルフォール訪問が予定されている。