フランス欧州ビジネスニュース2025年9月30日(フリー)
1. フランスで成層圏偵察気球プロジェクトが再開
2. ドイツの自動車部品サプライヤー、危機に陥る
3. エファージュ、フランスの洋上風力発電で大型契約を獲得
4. ダノンが腸内細菌に熱心に取り組んでいる理由
5. ヨーロッパ最大の電解槽が予定通りノルマンディーで稼働予定
6. フレンチテック:Synboli、AIと合成化学を組み合わせてポリマーを生産
7. 水力発電:小規模ダムの驚くべき復活
8. バルテENRが水力発電所の拡張資金を調達
9. サンゴバンがカナダに数十億ドルを投資する理由
1. フランスで成層圏偵察気球プロジェクトが再開
フランスは20〜100キロの「超高高度」活用を国家戦略(2025年6月17日策定)として本格化させ、Thales Alenia SpaceのStratobusとHemeriaのBalManが監視・接続の常時提供を狙っている。Stratobusは全長140メートル、径32メートル、機体空虚重量8トンで、ポテンシャルの低い成層圏でも400キロまでのペイロード(光学・電子戦・通信)を搭載し1年連続滞空、直径500キロを俯瞰できる。2機で「ベラルーシからクリミア」相当の国境線を常時監視できるとされる。事業は欧州防衛基金の4,300万ユーロ支援と仏調達庁の1,000万ユーロで再加速し、実寸の1/2規模デモ機2機を2026〜2028年に試験飛行。組立はカナリア諸島フエルテベントゥラの新宇宙港、運用拠点は仏イストル基地で、初号機の本格機は2030/31年の放球を目指す。仏・西・伊・独・洪・捷など8カ国が関心を示し、AWACSの一部任務をはるかに低コストで代替し得ると見込む。一方BalManはヘリウム気球で最大6か月滞空、25キロ搭載、軍用輸送機A400Mで迅速展開でき、今月ガイアナクールーで試験予定。両者は衛星を補完・冗長化し、大規模災害時の接続復旧など民軍両用での効果も狙っている。
2. ドイツの自動車部品サプライヤー、危機に陥る
ドイツ自動車産業の下請け・部品メーカーが生産減少と電動化の波で大規模再編に追い込まれ、破綻も相次いでいる。政府は危機対応として「オートギプフェル(自動車サミット)」を招集する方針である。完成車ではPorscheがEV投入計画を見直し30億ユーロ超の特別損失を計上、親会社Volkswagenにも影響が及ぶ。一方、部品大手ではZFのホルガー・クラインCEOが突然辞任、昨年の14,000人削減を超える追加策を示唆した。Boschは新たに25億ユーロのコスト削減計画を発表し、2024年に11,600人(独で4,500人)を減らしたのに続き、2030年までに独でさらに13,000人(国内従業員の10%)を削減する。Continentalは自動車部門Aumovio(売上200億ユーロ、100,000人)を上場し、ContiTech売却後の連結売上は140億ユーロへ縮小する見通しで、5年で12,000人削減済みである。中小ではKiekert(独700人)が破綻するなど連鎖が進み、労組IG Metallは業界崩壊の危機を警告する。
苦境の第一の要因は市場縮小で、PWCによれば欧州大手2社の生産は2019年比で最大30%減、430万台相当の落ち込みである。独国内生産も2011年の590万台から2024年に410万台へ減少した一方、雇用は業界全体で約77万人と高止まりし、工場の稼働率は低迷している。第二の要因は電動化による価値連鎖の転換で、エンジンから電池・ソフトへ重心が移る。Boschはディーゼル比でEVでは人員が10分の1で足りると試算するうえ、EVで先行する中国勢の台頭で地理的主導権も移動している。PWCは独サプライヤーの世界シェアが2024年に23%(2005年以来の最低)へ低下し、中国勢は0%から12%へ伸長したと指摘、UBSは伝統的サプライヤーの2030年までの年率-0.5%成長を予測する。第三は資金調達環境の悪化で、ゼロ金利期に拡大投資と債務を積み上げた反動が出ている。ZFはTRWとWabcoを200億ドル超で買収後、銀行圧力の下で電動化・ADAS部門(30,000人)の提携先探しと金利 7.5%での借換えを強いられている。
政府のFriedrich Merz首相は独を主要生産拠点に維持する目標を掲げるが、構造圧力は強い。各社はイノベーションと高付加価値領域へのシフト、米国関税への適応、中国成長の取り込み、コスト構造の見直しを迫られる。多角化も進み、Boschは暖房・空調、Schaefflerは防衛へ展開している。IG Metallは緊急の財政支援を要求し、将来のドイツ主権基金(Deutschlandfonds)からの拠出や域内ローカルコンテンツ規制の強化を提案するが、雇用と競争力の同時確保には産業政策と企業の事業転換を組み合わせた抜本策が不可欠である。
3. エファージュ、フランスの洋上風力発電で大型契約を獲得
仏建設大手Eiffageが、仏沖合の洋上風力向け変電設備(サブステーション)3基を受注し、契約額は15億ユーロ超である。対象はBretagne Sud、Narbonnaise Sud-Hérault、Golfe de Fosの各計画で、仏送電事業者RTEとEiffage Métalのベルギー子会社Smuldersが開発・建設契約を締結している。各サブステーションの系統接続能力は750MWで、合計2GW超の脱炭素電力を送電網に接続できる計画である。
構造物はフランスと欧州で一貫製造され、基礎はFos-sur-Merの拠点で組立てる。基礎寸法は、Bretagne Sudが高さ約115m×幅25m×長さ35m、Narbonnaise Sud-HéraultとFosが高さ約110m×幅45m×長さ50m。上部構造は重量約5,000トン、高さ20m超×幅35m×長さ70mとなる見込みである。
本件は、Vinci(傘下Cobra IS)と並ぶEiffageの欧州洋上風力分野でのプレゼンスを裏づける。Smuldersはこれまでに40基のサブステーションと2,500個超のトランジションピース実績を持ち、2024年も新規受注で10億ユーロ超の受注残を積み上げている。仏国内ではSaint-Brieuc、Saint-Nazaire、Provence Grand Largeなどの案件に参画してきた。さらに2025年春にはHSM Offshore Energy(売上約3億ユーロ、従業員140人)をSmulders経由で買収し、洋上風力の電気・機械システムに加え、CO₂回収・貯留や水素関連構造物でも体制を強化している。