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フランス欧州ビジネスニュース2025年9月2日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年9月2日(フリー)
Photo by André Lergier / Unsplash

1.        「最高の人材を確保するために、パリやフランクフルトと同じ給与を提示しています」:リスボンがいかにして「ヨーロッパのサンフランシスコ」になったか

2.        レアアース鉱山復活:フランス、新たな鉱業法と数十億ユーロの新投資

3.        風力発電:石油会社エクイノールが金融危機に陥ったオーステッドを救出

4.        人工心臓:カーマットが投資家の信頼を失った理由

5.        エネルギー :Enogia社が水素から脱却できた方法

6.        電気料金の上昇、再生可能エネルギーのコスト等々、仏エネルギー規制当局、議論の的となっている問題を説明

7.        英国のネオバンクRevolutの評価額は750億ドル

8.        爆発的な社会状況、不十分な投資…ロッテルダムとアントワープに苦戦するフランスの港

9.        重要金属:フランス、供給確保戦略を再確認


1.「最高の人材を確保するために、パリやフランクフルトと同じ給与を提示しています」:リスボンがいかにして「ヨーロッパのサンフランシスコ」になったか


リスボンは「ヨーロッパのサンフランシスコ」と呼ばれるほど、急速にテクノロジーハブとしての地位を確立している。市長であるカルロス・モエダスは元欧州委員会イノベーション担当委員であり、2021年の就任以来、都市の革新戦略を主導してきた。リスボンは2023年に「欧州イノベーション首都賞」を受賞し、それ以降、数多くのスタートアップを呼び込み、過去3年間で16,500人のテック関連雇用を創出した。さらに、2022年以降、EYリシュモン(Richemont)クラウドフレア(Cloudflare)BNPパリバナティクシスなど大手企業が80以上のテクノロジーセンターを設立し、リスボンとポルトだけで9,000人2,000人を雇用している。
この成長の象徴であるユニコーン・ファクトリー(Unicorn Factory)は、すでに16社ユニコーン企業(評価額10億ドル超のスタートアップ)を輩出しており、人口がわずか1,000万人のポルトガルとしては驚異的な成果である。また、パリのStation Fをはじめとする国際的なパートナーと連携し、これまでに900社近いスタートアップを支援してきた。さらに、パンデミック以降はデジタルノマドの流入も増加し、2022年に導入された特別ビザや71%再生可能エネルギーという優位性がデータセンター誘致を後押ししている。
しかし、この成功には副作用もある。家賃が3倍に高騰し、最低賃金865ユーロのポルトガルではテック人材の住居確保が難しくなっている。そのため、ラウヴァ(Rauva)のような企業は、パリやアムステルダムフランクフルトと同等の給与を提示し、優秀な人材確保に努めている。リスボンは今、世界的な資本と才能を引き付ける一方で、生活コスト上昇が長期的な成長を阻むリスクを抱える重要な局面にある。


2.        レアアース鉱山復活:フランス、新たな鉱業法と数十億ユーロの新投資


 フランスは、鉱業法の近代化と大規模な民間投資により、鉱業産業の復活を目指している。象徴的なプロジェクトは、イメリス社(Imerys)が主導するアリエ県のリチウム鉱山開発で、投資額は18億ユーロである。政府は4つの施行令を公布し、探査許可の期間をこれまでの5年から15年に延長し、経済・環境両面を統合した単一調査で手続きを簡素化した。
しかし、新しい鉱業法では、環境への重大な影響が懸念される場合、鉱業担当大臣が開発申請を拒否する権限を持つ。また、許可審査の段階で地方自治体一般市民の意見を反映する仕組みも導入された。ただし、フランス鉱山自治体協会などは、政府が十分な協議を行わなかったと批判している。
さらに、地政学的緊張の高まりや、中国によるレアアース輸出制限を受け、フランスは戦略的自立性の強化を急いでいる。2022年のヴァラン報告書では、採掘、精製、リサイクルの国内能力を強化し、供給源を多様化する国家戦略が示された。現在、フランス地質鉱山研究所(BRGM)が全国で地質調査を進めており、数か月以内に最初の結果が公表される見込みである。
現時点で、12件の専用調査許可が有効であり、24件が審査中、さらに2件の鉱山開発申請が進行中である。これら資本集約的なプロジェクトを支援するため、政府はインフラヴィア投資基金(InfraVia)を設立し、20億ユーロの資金調達を目指しており、そのうち5億ユーロは政府出資である。この基金はすでに初期投資案件の検討を開始している。
また、フランス2030計画では、重要金属に関連する34件の新規プロジェクトを支援し、総額25億ユーロの投資を行う。そのうち2億5300万ユーロは公的資金である。さらに、グリーン産業税額控除(C3IV)の対象となる7社によって、40億ユーロを超える民間投資が見込まれ、8億900万ユーロの税控除が適用される。これらすべての施策により、新たに15の工場が建設され、既存工場10か所の拡張が行われ、最終的に3,800人の雇用が創出される見込みである。


3.        風力発電:石油会社エクイノールが金融危機に陥ったオーステッドを救出


 ノルウェーの大手エネルギー企業であるエクイノール(Equinor)は、世界最大の洋上風力発電開発会社であるオーステッド(Orsted)の増資に対し、8億ユーロを出資することを決定した。この出資により、エクイノールはオーステッド株の10%の保有比率を維持することができる。エクイノールの昨年10月時点での23億ドルの初期投資額は半減したが、同社は洋上風力発電の競争力とオーステッドの事業戦略に強い信頼を示している。
今回の増資額は総額80億ユーロであり、デンマーク政府(オーステッド株50.1%保有)を含む60%以上の株主が賛同している。この増資計画は臨時株主総会で承認され、10月上旬までに完了する見込みである。さらに、エクイノールは2026年にオーステッドの取締役会で新たな取締役を指名する方針であり、今後さらなる出資比率の引き上げにつながる可能性がある。
市場の反応はオーステッドにとって好意的で、同社株は3.5%上昇したが、エクイノール株の動きは安定的であった。これは、同社が米国市場へのエクスポージャーを一段と高めることへの懸念が背景にある。米国では地政学的リスクが高まり、特にホワイトハウスがオーステッドの洋上風力発電プロジェクト「レボリューション・ウィンド(Revolution Wind)」の建設を停止するよう命じたことが影響している。このプロジェクトは総額40億ドル、進捗率80%の段階で中断されている。