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フランス欧州ビジネスニュース2025年8月27日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年8月27日(フリー)
Photo by Stanislav Ivanitskiy / Unsplash

1.        造船所:欧州委員会、中国との競争への対応策を準備中

2.        仏政府信任投票:フランスの債務とパリ証券取引所が再び混乱

3.        仏政府信任投票の発表後について米銀、警戒を強める

4.        地政学の冷たい風に吹かれるオルステッド

5.        仏政府信任投票: フランソワ・バイルーのギャンブル、混乱を招く

6.        エシロール・ルクソティカ、ニコンへの資本増強を継続

7.        修道院ビールの隠された真実

8.        ドナルド・トランプ、巨大IT企業を守るため、ヨーロッパに制裁をちらつかせている

9.        トランプ大統領の脅しに対し、欧州、テクノロジーを規制する「主権的権利」を擁護

10.  米関税:医薬品に関する貿易協定の再交渉、社会保障制度に混乱をもたらす可能性


1.        造船所:欧州委員会、中国との競争への対応策を準備中


 2025年8月初旬、韓国の大手造船企業であるHD現代重工業ハンファオーシャンサムスン重工業の3社は、米国大統領ドナルド・トランプが推進する造船業復興計画「Make America Shipbuilding Great Again(MASGA)」を支援する方針を決定した。韓国大統領イ・ジェミョンホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、1,500億ドルを米国造船業に投資することを正式に表明した。米国がアジアの優位を短期間で逆転することは難しいと見られるが、この動きは欧州にとって造船業再生の追い風になる可能性がある。
欧州委員会2025年末に向けて初の海洋戦略を策定中である。欧州造船業界団体であるSea Europeは、2035年までに1万隻の船舶を生産するという目標を掲げているが、現在の欧州造船所では年間大型船17隻小型船約100隻しか建造されていない。衰退の背景には、日本韓国、そして特に中国による圧倒的な攻勢がある。中国国有のCSSC(中国船舶集団)は、2024年だけで第二次世界大戦後の米国造船業の総建造量を超える船舶を生産したと報告されている。
かつて欧州は造船大国であり、1960〜1970年代には15万⼈がこの業界で働き、150〜200メートル級の船舶を建造できる大規模造船所を多数擁していた。しかし現在、雇用は3万7,000人まで減少し、世界の船舶の40%を運航する欧州の船主の多くが、30〜40%安価なアジア造船所に発注する状況である。さらに、低CO₂排出フェリーの最新世代でさえアジア製が主流となり、欧州は売上高の9%をR&Dに投資しているにもかかわらず技術競争で後れを取っている。
それでも欧州は依然として世界のクルーズ船市場の90%を支配しており、これは最も設計・建造が難しく、付加価値の高い分野である。欧州の造船産業は300の造船所28,000の装備メーカーを抱え、1兆2,800億ユーロの売上高と110万人の雇用を生み出している。さらに、ウクライナ戦争を契機に産業主権の重要性が再認識され、欧州委員会は船舶の脱炭素化支援欧州生産への補助金、および欧州製品の優先調達義務化といった政策を検討している。
また、欧州の造船業界は軍事支出の拡大によって需要が回復すると期待しており、軍艦建造契約の20%を確保することを目指している。同時に、高付加価値市場への注力も必要とされ、多用途フェリー洋上風力発電持続可能な漁業海底ケーブル保護などが成長分野として挙げられている。欧州の新たな海洋戦略は、アジア造船大手に対抗し、産業競争力を取り戻す最後の機会となる可能性が高い。


2.        仏政府信任投票:フランスの債務とパリ証券取引所が再び混乱


 
 投資家の間で、フランスの政治的不安定化への懸念が高まっている。これは、首相のフランソワ・バイルー2025年9月8日信任投票を求めると発表したことがきっかけである。この発表後、金融市場は大きく揺れ動いた。CAC40は火曜日に1.7%下落し、前日の1.6%安に続く大幅な下げとなった。他の欧州市場も0.4%から1%の範囲で軟調に推移した。国債市場でも圧力が高まり、フランス国債(OAT)とドイツ国債(Bunds)のスプレッド78ベーシスポイントに拡大し、2024年の政治危機以来の水準となった。
経済相のエリック・ロンバールは、「15日以内にフランスはイタリアよりも高い金利で国債を発行することになる」と警告している。実際、10年物国債の利回り差は9ベーシスポイント未満に縮小した。さらに、BNPパリバ、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・アグリコル4.2%から6.8%下落し、保険大手AXAも5.4%下げた。
また、ヴィンチ(-5.8%)エファージュ(-7.9%)ブイグ(-1.5%)といった公共投資に依存する企業も打撃を受けている。市場では、投資凍結契約再交渉の可能性が意識されている。さらに、財政不透明感が加わることで、投資家心理は一段と冷え込んでいる。
INGのエコノミスト、シャルロット・ド・モンペリエは、バイルー政権の崩壊がほぼ避けられない場合、フランス資産は長期的なボラティリティにさらされると警告する。2025年のGDP成長率はわずか0.8%と予測されており、今回の政治危機はさらに不確実性を高める結果となっている。
この状況は、2024年6月の国民議会解散以降の市場動向にも表れている。CAC403.5%下落したのに対し、ドイツDAXは30%上昇し、イタリアFTSE MIBも12%上昇した。こうしたパフォーマンスの差は、政治リスクと財政不確実性を背景とするリスクプレミアムの上昇を反映している。
実際、2024年6月以前はフランス国債とドイツ国債のスプレッド50〜60ベーシスポイントで推移していたが、国会解散発表後には79ポイントまで拡大し、さらにバルニエ政権の不信任時には88ポイントに達した。直近では、30年物国債のスプレッドが108ベーシスポイントにまで上昇し、フランスの長期財政運営への信頼低下が鮮明となっている。


3.        仏政府信任投票の発表後について米銀、警戒を強める


 フランソワ・バイルーの発言は、2024年の解散財政ショックの悪夢を想起させ、パリに拠点を置く米国大手銀行の不安を再び高めた。ゴールドマン・サックスJPモルガンモルガン・スタンレーシティバンク・オブ・アメリカは、2019年以降フランスで合計14億ユーロ超法人税を支払っており、そのうちJPモルガン単体で9億2,000万ユーロ超を負担している。特に2024年には、JPモルガンが3億4,960万ユーロをフランスに納めており、これはドイツでの1億3,700万ユーロの約2.5倍である。
しかし、最近の信任投票や野党の拒否権など、政治的緊張が強まる中、米銀幹部の間ではフランス経済の先行きに対する警戒感が高まっている。極右・極左政党の影響力拡大を懸念する声もあり、このまま不安定な状況が続けば、パリに集中してきた金融拠点を欧州他都市へ再配置する可能性がある。実際、フランスは2019年以降で5万件の金融雇用を創出してきたが、それにもかかわらず「フランスは改革能力に欠け、安定した政策環境を提供できていない」との見方が広がっている。
さらに、税制の不確実性が金融機関の懸念を深めている。例えば、JPモルガン2023年1億6,300万ユーロ付加価値税(TVA)と給与税を引当金として計上しており、これは2022年の1億600万ユーロから大幅に増加している。加えて、当初はフランスの銀行のみを対象としていた配当金詐欺調査ゴールドマン・サックスバンク・オブ・アメリカなど米銀にも拡大されている。
一方で、イタリアではジョルジャ・メローニ政権政治的安定魅力的な減税策により、多くの金融関係者を引きつけている。投資家たちは、フランスがこの不安定な状況を解消できなければ、大手米銀による段階的な撤退が進む可能性があると警戒している。