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フランス欧州ビジネスニュース2025年8月25日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年8月25日(フリー)
デンマークのバイオテクノロジー企業ババリアン・ノルディック

1.        チクングニア熱の流行、バイオテック企業ババリアン・ノルディックとその新しいワクチンを後押し

2.        エア・リキード、韓国DIG Airgasを買収

3.        ヒューマノイドロボットが工場に導入されるとき

4.        ダウントン・アビー:イギリスでは映画が観光名所に

5.        眠れる森の美女ニベアを目覚めさせたいフランス人、ヴィンセント・ワーネリー

6.        牛乳、チーズ…ますます国際化、ラクタリス社がニュージーランドで大型買収

7.        ガス火力発電所:ドイツの野心的な賭け

8.        オーステッドの主要プロジェクトが中止、米国では反風力攻勢が続く

9.        キルナ鉱山の中心地、ラップランドにある巨大鉱床でスウェーデン、ヨーロッパの希土類元素のチャンピオンに

10.  東欧、自動車産業の新たなエルドラド


1.        チクングニア熱の流行、バイオテック企業ババリアン・ノルディックとその新しいワクチンを後押し

デンマークのバイオテクノロジー企業ババリアン・ノルディック(Bavarian Nordic)は、2025年6月にフランスでチクングニア熱ワクチン**「Vimkunya」を発売し、フランスのヴァルネヴァ(Valneva)に続き、世界で2番目の承認済みワクチンを提供する企業となった。世界保健機関(WHO)は7月22日にチクングニア熱を「世界的な健康脅威」と宣言し、現在119か国56億人**が感染リスクにさらされていると推計している。
市場の先駆者であるヴァルネヴァのワクチン**「Ixchiq」は、死亡例や入院例が報告されたことから一時的に接種が停止され、ブランドイメージが大きく損なわれた。2025年上半期の売上はわずか750万ユーロで、全体の売上9800万ユーロに占める割合は小さい。一方、ババリアン・ノルディックのVimkunyaは、生ウイルスを使わずウイルス粒子ベースの技術を採用しており、高齢者や免疫抑制患者に対してもリスクが低いと評価されている。現時点で同ワクチンの売上は170万ユーロにとどまるが、2025年末までに1400万ユーロ**まで拡大する見込みである。
チクングニア熱は急速に拡大している。中国南部では5000人以上の感染者が報告され、インド洋地域ではレユニオン島の住民の3分の2がすでに感染したとされる。フランスでは8月19日時点で932件の輸入症例が確認され、さらに81県154件の国内感染が発生している。これは温暖化により**ネッタイシマカ(moustique tigre)**が急速に北上していることが主因である。
チクングニア熱ワクチン市場は年間5億ドル以上と見込まれており、旅行者向けの市場だけでも3億~4億ドル規模とされるが、感染拡大のスピードを考慮すると、実際の市場はさらに大きくなる可能性が高い。この高成長分野に対し、投資家の関心も高まっている。7月末、投資ファンドのノルディック・キャピタルペルミラ25億ユーロでババリアン・ノルディックの買収提案を行い、株価に対して21%のプレミアムを提示した。しかし市場はこれを過小評価と見ており、同社の株価は240デンマーククローネ前後で推移し、提示額の233クローネを上回っている。
さらに、フランスとオーストリアのバイオテック企業ヴァルネヴァファイザーと共同でライム病ワクチンを開発中であり、その臨床試験結果は2025年末に公表予定である。もし有効性が証明されれば、感染症対策における画期的な転換点になるとみられる。しかし、ババリアン・ノルディックも2026年に競合ワクチンの臨床試験を開始予定であり、ライム病ワクチン市場でも熾烈な競争が予想される。


2.        エア・リキード、韓国DIG Airgasを買収


 エア・リキードは、韓国での成長機会を捉え、DIG Airgas28億5,000万ユーロで買収した。この買収額は同社の企業価値の2.5%未満であり、財務的に無理のない取引である。2015年に発表されたアメリカの大規模買収Airgas(今回の4.5倍規模)とは異なり、資本増強を必要とせずに韓国市場での地位を「大幅に」強化できる。
エア・リキードは1990年代半ばから韓国で事業を展開しており、同国は世界第4位の産業ガス市場であり、さらにイノベーション投資比率で世界第2位という戦略的な市場である。売り手であるマッコーリーへの支払額は高額とされ、2024年EBITDAの20.2倍という評価額での買収となった。参考指標として自社の評価は15倍であり、割高との見方もあるが、コストシナジー受注残を考慮すると14.8倍まで低下し、収益性は高まる見込みである。
統合後翌年から純利益が増加すると予想されており、今回の取引はAPAC(アジア太平洋)市場の魅力を改めて示すものとなった。フランス企業のAPAC志向は強まっており、ラクトリスフォンテラの消費者向け事業の買収を進めていることからも、この傾向が確認できる。


3.        ヒューマノイドロボットが工場に導入されるとき

かつてはSFの世界に過ぎなかった人型ロボットが、いまや産業界で現実となりつつある。2021年現代自動車(Hyundai)が買収したボストンダイナミクス(Boston Dynamics)は、人型ロボットAtlasを自動車工場での物流作業に対応させる訓練を進めている。現代自動車は、将来的に数万台規模のロボット米国ジョージア州の工場に導入する計画である。こうした動きは、人工知能(AI)とメカトロニクスの急速な進歩、さらに製造コストの劇的な低下によって加速している。
予測は極めて大胆である。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、2030年末までに100万体、2050年頃までに30億体の人型ロボットが普及すると試算しており、人間3人につき1体のロボットという計算になる。一方でUBSはより慎重で、2035年に200万体2050年に3億体と見込んでいる。初期段階では、これらのロボットは工場物流倉庫での使用が中心となり、危険な作業や単純で反復的な作業を担うとされる。すでに現代自動車BMWメルセデスなどの自動車メーカーが部品搬送や組立工程で実証実験を進めている。
しかし、現時点での技術はまだ不十分である。試作機の多くは動作が遅く、器用さにも欠け、単純作業においても人間より50%〜70%効率が低いとされる。経済的な採算は導入コストに大きく依存する。米国では、1台12万2,000ドルが採算ラインとされるが、中国では1万5,000ドル以下が条件とされる。中国メーカーのUnitreeはすでに1万6,000ドルのモデルを発売しており、実用化は現実的な段階に近づいている。
将来的には、人型ロボットは工場を超えて在宅支援家事サービスの分野に進出すると予想される。研究者のアブデラーマン・ケダー氏によれば、3〜5年で人間を補助するロボットを実用化できる可能性がある。こうした進展は、産業構造だけでなく世界経済全体を大きく変える可能性がある。イーロン・マスク(Elon Musk)は、汎用的な人型ロボットの登場により労働力不足が解消され、経済成長に限界がなくなると主張している。しかし、課題も残る。ロボット製造には大量のレアアース(希土類)や戦略金属が必要であり、UBSの試算によれば2050年までに世界生産量の35%が消費される見込みである。