フランス欧州ビジネスニュース2025年7月9日(フリー)

1. 家全体がバッテリーに:仏西研究チーム、革新的コンクリートを開発
2. EDF、英国のサイズウェル原子力発電所に5億ポンドを再投資
3. 仏スタートアップSiPearl、130百万ユーロを調達しAI向けCPU「Rhea1」をTSMCで生産開始
4. 新薬:中国が米国とEUを追い抜く
5. 欧州委員会、化学産業再生のための包括的計画を発表
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1. 家全体がバッテリーに:仏西研究チーム、革新的コンクリートを開発
フランスとスペインの研究者たちが、イオンを通す新型コンクリートを開発し、住宅の壁を巨大なバッテリーとして活用する可能性を示した。この研究は、Green Concrete LTC(仏西共同研究所)によって行われ、環境負荷の少ない次世代コンクリートの開発を目的としている。
使用された材料は、従来のセメントの代替として注目される天然素材のメタカオリンであり、さらに硫酸亜鉛ベースの液体電解質を加えることで、イオン伝導性を高める工夫がなされた。
実験では、一辺10センチメートルのミニチュア住宅が製作され、LEDを点灯できるだけの電力を蓄電することに成功した。既に10回以上の充放電サイクルを達成しており、今後は1,000回超の安定運用が目標とされている。
現在のエネルギー密度は3.3 Wh/Lであり、リチウムイオン電池の最大570 Wh/Lと比べると低いが、5倍の向上を目指すことで、産業利用や民間投資の呼び込みを図っている。
今後の課題としては、建材としての強度の確保や、間仕切り壁・床・プレハブパネルなどへの応用展開が挙げられる。また、さらなる性能向上を目指すため、欧州の研究資金獲得プロジェクトも計画中である。
2. EDF、英国のサイズウェル原子力発電所に5億ポンドを再投資
EDF(フランス電力)は、英国サフォーク州で建設予定の原子炉Sizewell Cに対して、最大11億ポンド(約127億ユーロ)の再投資を発表した。すでに2018年から着手されているこのプロジェクトには、これまでに6億5200万ユーロが投入されており、現在は建設準備段階にある。
さらに、フランスの公的投資銀行Bpifranceが50億ポンドの債務保証を提供する予定であり、英国政府は今夏までに資金調達を完了させたい意向である。EDFの出資比率は2025年末の16.2%から12.5%に減少する予定であるが、過度な希薄化を避けるために一定の資本参加を維持する。
これにより、過去に建設された英国南西部のHinkley Point C(建設費が180億→430億ポンドに増加)との費用共有スキームが発動され、EDFはSizewell Cから14億ポンドのロイヤルティを受け取る見込みである。また、Apolloファンドからの45億ポンドの融資を活用する計画もある。
建設には年間50億ユーロの資金が必要で、1万2000人の労働者が動員される予定である。プロジェクト全体の費用は400億ポンドに達すると見られており、英国政府は30年ぶりの原子力再興に向けた戦略的事業と位置づけている。
将来的には、Westinghouseの親会社であるBrookfieldファンドが20%の出資、Centrica(British Gasの親会社)が15%の出資を予定している。最終的な投資判断の時期は2024年6月末から7月末と見込まれており、正確な完了時期や総予算は未確定である。
3. 仏スタートアップSiPearl、130百万ユーロを調達しAI向けCPU「Rhea1」をTSMCで生産開始
2020年にフィリップ・ノトン氏が設立したフランスのスタートアップSiPearlは、AIスーパーコンピューター向けの戦略的CPUを開発する企業である。2024年6月、同社は新たに3,200万ユーロを調達し、過去2年間で累計1億3,000万ユーロの資金調達に成功した。
この資金調達には以下が含まれる:
- 欧州投資機関EIC Fundからの1,500万ユーロ、
- フランス2030計画からの700万ユーロ、
- 総資産1,200億ユーロを運用する台湾Cathayグループ傘下のCathay Venturesからの出資。
同社が開発した初のCPU「Rhea1」は、開発費2億ユーロをかけており、現在台湾の半導体大手TSMCにて量産が始まっている。最初の出荷は7か月以内を予定している。
しかし、欧州には半導体製造のインフラが不足しているため、SiPearlは設計のみを行い生産は外部委託するファブレスモデルを採用している。
財務的には、同社は2024年5月19日に債権者との調整手続(コンシリエーション)を完了しており、依然として資金調達の難しさが浮き彫りとなっている。
開発中のCPU「Rhea1」は、ドイツに設置予定のエクサスケール・スーパーコンピューター「Jupiter」に搭載される予定であり、米Nvidia製GPUと並ぶ重要な構成要素となる。
さらに、SiPearlは欧州AIギガファクトリー計画への参加も目指している。同社はイリアド(Iliad)が主導するAIONコンソーシアムに属し、フランス国内で巨大なAIクラスターを構築する計画に関与している。EUは構成技術の20%を欧州製とする要件を提示しており、SiPearlはその一角を担うことを期待している。