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フランス欧州ビジネスニュース2025年7月2日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年7月2日(フリー)
廃棄物処理、輸送、物流などをグローバル展開する独家族企業Rethmannグループ

1.        エネルギー貯蔵:欧州最大の工場、ノースボルトが米国企業の傘下に

2.        ロボット工学へのAIの応用でAI投資ブームが更に加熱

3.        トランスデブを支配している控えめな独家族経営企業、レスマン

4.        レアアース:中国に対抗しフランスが主権を取り戻す方法

5.        仏自動車市場、危機に陥る

6.        米国の関税:欧州経済を待ち受ける代償

7.        人工知能:欧州で遅れをとるフランス企業

8.        労働時間:フランスは依然としてヨーロッパの近隣諸国に遅れをとっている

9.        衛星:ラティチュード、初の工場に5000万ユーロを投資

10.  GDP成長:熱波によるフランス経済へのコスト


1.        エネルギー貯蔵:欧州最大の工場、ノースボルトが米国企業の傘下に

アメリカの企業Lytenは、2025年6月破産したスウェーデンのNorthvoltのポーランド事業を買収すると発表した。対象には、2023年に稼働したグダニスクエネルギー貯蔵システム工場25,000㎡)が含まれ、これは欧州最大規模である。取引は2025年第3四半期に完了予定である。
この工場は、データセンターの需要拡大や電力網の安定性に応えるために必要とされており、ヨーロッパ域内生産を求める声に応える立地とされている。
Northvolt2016年に設立され、テスラ出身者が創業者である。13.5億ユーロの資金を調達し、2021年末にスウェーデン・シェレフテオに欧州最大の電池ギガファクトリーを開設した。
しかし、生産遅延が発生し、BMWとの20億ユーロの契約を失い、58.4億ドルの負債を抱える一方で、流動資産は3,000万ユーロしかなかった。2024年11月には米国でチャプター11による破産保護を申請し、2025年3月12日にスウェーデンでも正式に破産申請を行った。従業員の4分の1にあたる1,600人が解雇された。
この破綻は、欧州の電池産業戦略にとって大きな打撃である。欧州連合は、中国、韓国、日本といったアジア勢の支配に対抗し、電池の自給自足を目指していたが、Northvoltの崩壊によりその希望は遠のいた。


2.        ロボット工学へのAIの応用でAI投資ブームが更に加熱

Genesis AIは、Mistral AI出身の起業家カーネギーメロン大学の研究者によって設立されたスタートアップであり、産業ロボットの進化を目指す基盤モデルの開発に向けて、1億500万ドル(約8900万ユーロ)のシード資金を調達した。
このモデルは、物理シミュレーションマルチモーダル生成モデリング、および大規模な実データを統合するユニバーサルデータエンジンに基づき、ロボットが同一環境で複数のタスクを柔軟に遂行できるようにすることを目指している。
この分野ではすでにSkildAI3億ドルPhysical Intelligence4億ドルを調達しており、NvidiaGoogle DeepMindOpenAIジェフ・ベゾスなどのテック大手も参入している。
Genesis AIオープンソースの方針を掲げ、開発者の参加を促進し、研究の加速を狙う。データシミュレーターはすでに公開されており、2025年中に基盤モデルを発表予定である。商用展開は今後3〜5年以内と見込まれている。
フレンチテックも活発に動いている。Inbolt1500万ユーロを調達し、StellantisAirbusToyotaなどの産業用ロボットに視覚AI技術を提供している。また、Cyberus AIは、ロボットに強化学習を通じて自律的にスキルを習得させるソフトウェアを開発しており、Genesis AIの基盤モデルとの連携も視野に入れている。
AI搭載ロボットは、高齢化社会工場労働の負担生産性の低下といった現代の課題に対する革新的な解決策とされており、次なる技術的フロンティアとして注目されている。


3.       トランスデブを支配している控えめな独家族経営企業、レスマン

ドイツの家族経営企業Rethmannグループは、フランスの交通運営会社Transdevの株式を32%追加取得し、持ち株比率66%で買収を完了した。買収金額は4億5,000万ユーロであり、この取引により従業員数は約20万人に倍増し、うち3万9,000人フランスに勤務している。グループの世界売上高245億ユーロから350億ユーロに増加し、そのうち40億ユーロ以上がフランスでの売上である。
1934年ゼルム(Selm)で4頭の馬と5台の馬車から事業を開始したRethmannは、現在では廃棄物処理輸送物流動物副産物処理においてグローバル展開している。グループ傘下のRemondisRhenusSariaは、それぞれ都市廃棄物の管理、13万社の物流顧客対応年間270万トンの動物副産物処理を担っている。
今回のTransdev買収により、マルセイユフェニックスメルボルンダブリンなどの都市で、バス、地下鉄、路面電車、鉄道の運営に携わることになる。Rethmannは、マクドナルド(7万8,000人)に次ぎ、アマゾン(2万5,000人)を超えて、フランスで最大級の外国人雇用主の一つとなる。
同族は、「Manager magazin」によるとドイツ第24位の富豪であり、推定資産は80億ユーロ。その経営方針は、配当を10%以下に制限し、年間200件以上の買収を行うことで成長を図るというもの。現在、グループは3,000の子会社(うち1,700は少数株主型)を持ち、各社は高い自律性を持って運営されている。
2023年には、地方廃棄物収集市場での40%の市場シェアが独占的と見なされ、ドイツの競争当局が調査を開始した。さらに、2019年にはDSD(デュアルシステム・ドイチュラント)の買収も阻止された。フランスでも、シュロール(Schroll)やTransdevの買収により、その急成長ぶりが懸念され始めている
グループは極めて秘密主義であり、広報責任者の役割は報道回避ともされるが、一方で、経営陣や取引先を毎年5月に家族邸宅に招くなど密な関係構築も重視している。創業者一族の伝統と革新性が、今もこの欧州の“隠れた巨人”を支えている。