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フランス欧州ビジネスニュース2025年5月9日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年5月9日(フリー)

1.        防衛:独ラインメタル、衛星生産を開始

2.        フランスの小売業者がサイバー犯罪者に狙われる理由

3.        アメリカや中国への販売が減速する中、フランスのブドウ園に恩恵をもたらすワインツーリズム

4.        欧州再軍備の大きな勝利者、ギリシャの巨大企業メトレン

5.        関税:欧州委員会、報復としてアメリカの自動車、航空機とバーボンに課税

6.        CO₂排出量:欧州議会議員、自動車業界に対する規制を緩和

7.        欧州特許庁、レア・アースに関する発明を表彰

8.        英国でのオルステッド計画の放棄:洋上風力発電の困難さの象徴

9.        国による価格制約により、仏民間クリニック、倒産相次ぐ


1.        防衛:独ラインメタル、衛星生産を開始


ラインメタルはフィンランドのマイクロサテライト企業 Iceye と提携し、60 % 出資の合弁会社を設立、SAR衛星(全天候型高解像度レーダー衛星)の量産を行うことを発表した 。
 
同社は年間売上高 100 億ユーロ の防衛大手で、自動車部品製造の拠点である仏ノイス工場(売上高 20 億ユーロ)を再活用し、2026年第二四半期 に衛星生産を開始する予定である 。
 
Iceye は 2014年 創業以来、2018年 からすでに 約40基 のSAR衛星を打ち上げ、中央情報局系ファンド In-Q-Tel が資本参加している 。
 
ラインメタルの 2025年第一四半期 業績は、売上高が 2.3 億ユーロ で前年比 46 % 増、営業利益が 1.99 億ユーロ で約 50 % 増、受注残高は 630 億ユーロ に達した 。

💡  解説

ラインメタルは防衛に限らず、宇宙分野にも事業
を広げている。マイクロサテライト企業 Iceyeはフィンランドで2018年設立の衛星スタートアップ企業。既に七百人の従業員を擁し、株主にはCIAのファンドであるIn-Q-Telを迎え入れている。同社はアメリカの防衛高等研究計画局(DARPA)とも取引である。
ラインメタルはこのビジネスで一石二鳥を得た。自動車部品製造の業績低迷による仏ノイス工場の雇用問題を解決するとともに、宇宙産業という新領域への進出・推進


2.        フランスの小売業者がサイバー犯罪者に狙われる理由


2024年、世界の小売業者に対するサイバー攻撃は 33 % 増加し、週あたり 1 415件 に達した(出所Check Point Research) 。
仏データ保護機関庁CNILは大規模攻撃が 2倍 に増え、100万人以上の個人情報が流出した事案が約 40件 発生したと報告している 。
ある小売業の情報責任者は、年間 700件 のインシデントを20名のチームで対応し、月に平均 1件 の深刻な攻撃を受けていると証言している 。
頻発する攻撃は、顧客データ窃盗、偽データを使った恐喝、ランサムウェア の3タイプである 。
小売業者は多額の資金フローを扱い、巨大な顧客データベース と多様かつ相互接続された情報システム を持ち、取引先中小企業のセキュリティが弱いことから「魅力的な標的」であるとされている 。

💡  解説

イギリスでもサイバーセキュリティの被害は数々報告されており、最近マーカス・アンド・スペンサーがランサムウェアで3000万ポンドの減収被害を受けたと発表したのは記憶に新しい。
仏サイバーセキュリティ業界団体によると百貨店やスーパーだけではなく、小売業者以外にも最近サイバー攻撃のターゲットになっている。Auchan(スーパー)、Auchan, Boulanger(電器店), Cultura(書店) et Truffaut(園芸)、 France Travail(ハローワーク), Free(携帯、インターネット接続)など。


3.        アメリカや中国への販売が減速する中、フランスのブドウ園に恩恵をもたらすワインツーリズム


フランスのワイナリー訪問者数は、5年間で20 %増の1,200万人に達し、特に英国人、ベルギー人、米国人などの外国人客が29 %増加した一方、フランス人は660万人14 %の増にとどまっている。ボルドーでは、シャトー・ラランド=ラバトゥで行われる一夜限りのワインバーに最大400人が集まり、グラス1杯3ユーロ、ボトル10~18ユーロで提供されるこの取り組みは、2022年に中国市場の鈍化と国内赤ワイン消費の減少を受けて開始された。2023年、独立系ワイナリーのワイン観光5億1800万ユーロの売上を生み、一部のドメーヌでは「ヨガ体験」や「カヌーによる渓谷下り」といったアクティビティが収入の50 %超を占めるほどに成長している。2009年に創設された「Vignobles & Découvertes」認証を得たドメーヌは75、訪問可能なワイナリーは1万軒を超え、2015年のシャンパーニュ地方のユネスコ登録により、ランス市の宿泊税収が80万から300万ユーロに急増した。とはいえ、こうしたワイン観光はあくまで成長のレバレッジに過ぎず、バルクワイン危機全体を救う「万能薬」ではなく、一部の生産者は55ヘクタールのうち20ヘクタールを売却して収益性の高い観光事業に注力している。

💡  解説

ワインの劇的な販売増や減収の補填という短期的な効果はないものの、ワインツーリズによる長期的なメリットは以下五つ挙げられる。

直接販売の拡大
来訪者にワイナリーで直接ワインを購入することにより、中間マージンを省き、利益率を高めることができる。

ブランド認知とファンづくり
醸造所見学や試飲体験を通じて、消費者にワイナリーのストーリーやこだわりを伝えられるため、ブランドロイヤルティが向上し、リピーターや口コミを増やせる。

高付加価値商品の開発
観光客のニーズに応える限定品や特別キュヴェを販売することで、通常商品よりも高価格帯のワインをヒットさせる機会が生まれる。

顧客データの取得と市場理解
来訪者のアンケートや購買履歴を通じて、消費者の嗜好や購買動機を把握し、商品開発やマーケティング戦略に活かせる。

地域経済への貢献と協業・相乗効果
ワイナリー単独ではなく、近隣のレストランや宿泊施設、観光資源と連携することで、地域全体の魅力向上につながり、地域ぐるみでの集客力強化が期待できる地域イベント
このような観光客を誘致するための地域イベントは特に大変盛んだ。ボルドー、アルザス、シャロネーズ沿岸のブドウ畑で模倣されたメドックマラソンなどのスポーツイベントジェール県のジャズ・イン・マルシアック・フェスティバルトロワのニュイ・ド・シャンパーニュ(それぞれプレモンとドゥヴォーのシャンパーニュ生産者が支援)などの文化イベント、ジュラ地方のペルセ・デュ・ヴァン・ジョーヌや、ローヌ県ボージュのボジョレー・ヌーヴォーの到来を祝うサルマンテルなどの伝統的な祭りイベントなどである。