フランス欧州ビジネスニュース2025年5月7日(フリー)

1. 防衛:巨大企業ラインメタルの無限の野望
2. TikTokからスーパーマーケットまで:もちアイスがZ世代を魅了した理由
3. 貿易戦争にもかかわらず、仏ルグラン、米国のデータセンターによって成長続ける
4. KNDS、ギリシャで装甲車両輸出に向けて攻勢
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1. 防衛:巨大企業ラインメタルの無限の野望
ウクライナ戦争の勃発以降、ラインメタル社(Rheinmetall)は西側諸国最大の砲弾製造企業となった。ヨーロッパ各国がキーウ支援やドイツ連邦軍(Bundeswehr)の近代化に取り組む中で、同社の受注残高は245億ユーロから550億ユーロに増加し、売上高は100億ユーロ近くに倍増した。
同社の株式時価総額は15倍に急増し、600億ユーロを超えた。株価も今年1月以降で140%以上上昇した。ラインメタルは2027年までに200億ユーロ、2030年には300億ユーロ、さらにはNATOが各国にGDPの3%を防衛費に充てるよう要請すれば、500億ユーロの売上も可能と見込んでいる。
これを支えるため、同社はルーマニア、ハンガリー、リトアニアを含むヨーロッパ全体で10の工場を建設・拡張しており、特にドイツ・ウンターリュスには6億ユーロを投資して年産110万発の155mm砲弾工場を建設中である。
弾薬部門の利益率は28.4%と高く、他部門(自動車4.2%、装甲車11.2%、電子機器12.6%)を大きく上回る。ウンターリュスでは新たに500人を雇用し、既存の2,800人の従業員に加わる予定である。
CEOのアルミン・パッペルガー(Armin Papperger)はこの成長を体現する人物であり、クレムリンによる暗殺未遂の対象となり、首相級の警備を受けている。彼は米国企業Loc Performanceを買収し、160億ドルと450億ドルの米国防総省案件に挑戦する一方、イタリア政府との230億ユーロ契約も獲得した。
しかし、ラインメタルの台頭はフランスにとって戦略的な警戒対象である。同社は仏独共同の次世代戦車プロジェクトに参加しているが、KNDSを技術的に同等と見なしておらず、大西洋主義的な姿勢をとっている。
同社はまた、職人型生産やドイツ国内の否定的世論、権限集中型の企業文化といった課題も抱えている。監査役会はその是正のためにCOO(最高執行責任者)職の設置を推進した。
これらにもかかわらず、ラインメタルは欧州の再軍備の中心として存在感を強めており、欧州の防衛政策に大きな影響力を持つ企業となっている。
💡 解説
ラインメタルについて以下三つの観点からコメントしたい。
急激な株高
ウクライナ開戦時、2022年2月24日同社の株価は202ユーロ。今日2024年5月7日現在フランクフルト市場で1620ユーロ。開戦時に1000ユーロを投資していた場合、実に8倍( !!!) の上昇。これはドイツ株式市場でもここ2年でトップ級の上昇率だ。
他欧州防衛企業との同社の売り上げ予想比較
ヨーロッパ防衛企業 売上高ランキング(2023年)
- BAEシステムズ(イギリス):298億ドル
- エアバス(欧州):129億ドル
- レオナルド(イタリア):124億ドル
- タレス(フランス):104億ドル
- ラインメタル(ドイツ):55億ドル
- ロールス・ロイス(イギリス):約50億ドル
- MBDA(欧州):48億ドル
- ダッソー・アビエーション(フランス):37億ドル
- KNDS(ドイツ/フランス):33億ドル
- フィンカンティエリ(イタリア):28億ドル
ラインメタルは2027年までに200億ユーロ、2030年には300億ユーロの売り上げ予想を立てているが、2023年レベルではこれは、エアバスを越え、ラインメタルがBAEシステムズに匹敵する売上高になることを意味する。急激な売り上げ増であるが、欧州とドイツの再軍備計画を考えると、実現不可能なレベルと言える。
欧州とドイツの再軍備計画
欧州委員会は「Readiness 2030」で最大で8000億ユーロの動員を欧州の防衛に見込んでいる。また、ドイツ連邦議会は、防衛とインフラに計1兆ユーロを投資する大規模な計画を承認した。このうち、約4000億ユーロが防衛関連に充てられる予定である。ドイツに位置し、欧州で10工場を持つラインメタルが欧州とドイツの再軍備計画で最も恩恵を受けるのは間違いなく、今後のラインメタルの成長のリスクとなりうるのはドイツ国民の戦争ビジネスへの批判や反発、またフランスのThalesなど他欧州防衛企業との競争と横槍だろう。
2. TikTokからスーパーマーケットまで:もちアイスがZ世代を魅了した理由
もちアイスは、ここ数年でフランスにおいて急速に定着したスイーツであり、その人気の背景にはSNSの影響がある。2021年にフランス人インフルエンサーがTikTokに投稿した動画が数千万回再生され、特に若者層を中心に爆発的なブームを引き起こした。これを受けて、Franprix、Picard、Carrefourなどの大手流通業者が次々に取り扱いを始めた。
この流れに乗ったのが、ブルターニュ州クレダンに拠点を置く企業Tillizである。親会社はAlain Glon Holding(2024年の売上高は4億4,000万ユーロ)であり、もともとは日本風串焼きを製造していたが、動画バズを契機に完全にもちアイスに業態転換した。数千万ユーロ規模の投資を行い、生産体制を拡大。2017年の売上はわずか4,500ユーロだったが、2024年には3,500万個を生産し、2025年には5,000万個の販売を目指している。
Tillizは多くの流通企業にPB商品として供給しており、消費者の中心は15〜25歳。しかし、製品の70%は国外に出荷されている。企業はSNSのトレンドに応じて商品開発を行っており、ハート型もちやドバイ風チョコもちなどが誕生している。
さらに、Little Moonsのようなブランドも市場拡大に貢献しており、2019年からFranprixでの販売を開始し、現在ではPathé系映画館30か所以上でも提供されている。チーズケーキ味や抹茶味、さらにはスナックタイプの持ち歩き用もちアイスなど、商品の多様化も進んでいる。
💡 解説
もちアイスは欧州でTikTokなどSNSの影響もあって近年爆発的に売れている。欧州でもちアイスが人気を集める理由はいくつかあるので、挙げてみます。
世界のもち市場(ソース:Verified Market Research)は 2023年に4億3,217万ドル、2032年までに11億8,218万ドルに達すると予測され、年平均成長率は11.83%で推移するとされる。
1. ユニークな食感と風味
もちアイスは、もち米で作られた薄い生地でアイスクリームを包んだ日本の伝統的なお菓子だが、その独特な食感がヨーロッパの消費者に新鮮さを与えた。もちのもちもちした食感とアイスクリームの冷たさ、そして異なるフレーバーが一体となった食感が、他のデザートと比較して印象的であり、試してみたくなる要因となっています。
2. SNS(特にTikTok)でのバイラル化
近年、特にTikTokやInstagramなどのSNSで、もちアイスがバイラルヒットを起こしました。例えば、Little Moonsなどのブランドは、SNSでの拡散により大きな成功を収めた。映える外観や、食べる瞬間のユニークさが、SNSでシェアされやすく、これが人気を後押した。
3. アジア文化への関心
ヨーロッパでのアジア文化への関心の高まりも一因。日本の食文化やデザートは、特に若年層を中心に注目され、もちアイスはその一環として人気を集めた。アジアからの影響を受けた食品や飲料がトレンドとなることが多く、もちアイスもその一例。
4. 健康志向とダイエット対応
もちアイスは、一般的に他のデザートに比べてカロリーが低めであり、乳製品を使用したアイスクリームよりもさっぱりとした味わいがある。これが、低カロリーや健康志向を重視する消費者に受け入れられた要因の一つ。また、グルテンフリーの選択肢としても人気がある。
5. 手軽でポータブル
もちアイスは、手軽に食べられるスナック型のデザートだ。アイスクリームのように溶けてしまうことなく、手に持って食べやすい形状が、特に忙しい現代人のライフスタイルに合っている。この利便性が消費者にとって大きな魅力となっている。
6. 新しいフレーバーの開発
多くのもちアイスメーカーは、伝統的な味に加えて、さまざまなフレーバーを提供しており、これがヨーロッパ市場の多様な消費者の好みに応えている。たとえば、チョコレート、フルーツ、抹茶、さらにはアルコール入りのフレーバーなど、さまざまなバリエーションを今は楽しむことができる。
3. 貿易戦争にもかかわらず、仏ルグラン、米国のデータセンターによって成長続ける
フランス・リモージュに本社を置く電気機器大手ルグラン(Legrand)は、2025年第1四半期に22億7,800万ユーロの売上を記録し、前年同期比で12.3%増となった。うち7.6%はオーガニック成長によるものである。この成長は主に北米市場によって支えられ、同地域での売上は20.2%増、グループ全体の37.7%を占めている。特にデータセンター向け製品の需要が顕著であり、Microsoft、Meta、AWSなどの顧客が牽引役となっている。
一方で欧州市場では、建設業の低迷により売上が0.3%減少した。ただし、建築許可件数の増加など、いくつかの回復兆候も見られており、2025年末までに市場の反転が期待されている。
ルグランは、2025年の成長目標として売上の6〜10%増加を維持しており、トランプ政権による関税措置に備えた対策として、価格の1〜2ポイント引き上げや生産拠点の分散化などを進めている。具体的には、ベトナムに第2工場を建設する計画も含まれている。
この四半期中に、ルグランは2件の企業買収を発表した。1つはオランダのPerformation社であり、2,000万ユーロ以上の売上を持つヘルスケア向けソフトウェア企業である。もう1つはオーストラリアのComputer Room Solutions社であり、データセンター専門企業である。
同社は今後も買収戦略を継続する方針であり、注力分野としてヘルスケアのデジタル化とエネルギー転換を掲げている。
💡 解説
Legrand(レグラン)は、フランスを本拠地とする電気機器の大手メーカーで、特に電気設備、住宅および商業用の電気機器の分野で強みを持っている。
強み
グローバルな市場展開
Legrandは、世界中に広がる販売ネットワークを持ち、約90カ国で事業を展開しています。特にヨーロッパ、アメリカ、アジア市場で強いプレゼンスを誇る。
製品の多様性と品質
電気機器分野における広範な製品ラインアップを提供している。これには、スイッチ、コンセント、電気分電盤、照明管理システム、スマートホームソリューションなどが含まれ、幅広いニーズに対応している。高品質で信頼性の高い製品が顧客に支持されている。
強力なブランド認知度
Legrandは、業界内で非常に強力なブランドを築いていて、特に商業施設や住宅に必要な電気機器の分野で信頼されている。そのブランド力は、顧客からの忠実度を高め、競合他社との差別化要因となっている。
技術革新とデジタル化への対応
Legrandは、スマートホームやインターネット・オブ・シングス(IoT)関連の技術開発に力を入れていて、デジタル化された電気機器や、エネルギー効率に優れた製品を提供している。これにより、現代的な建物や住宅での需要に応えている。
これからの同社の成長機会
スマートホーム市場の成長
スマートホーム技術は急速に成長していて、Legrandはこの分野での製品ラインを強化している。IoT対応の製品やエネルギー効率の良い製品は、今後の成長が期待される。
再生可能エネルギーとエネルギー効率の推進
環境問題への関心が高まる中で、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入を支援する製品への需要が増加している。Legrandは、これらのニーズに対応したソリューションを提供しており、将来的な成長の機会がある。
新興市場での拡大
特にアジアやラテンアメリカ市場において、都市化やインフラ整備が進んでおり、これに伴い電気機器の需要も増加している。Legrandはこれらの市場でのシェア拡大が期待される。
インフラ整備の需要増加
世界的にインフラ整備が進んでいる中で、商業施設や公共施設の電気機器の需要が増加している。この市場はLegrandの主要なターゲット市場の一つだ。