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フランス欧州ビジネスニュース2025年5月6日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年5月6日(フリー)

1.     防衛:ユーテルサットが欧州の主権にとって不可欠となった経緯

2.     フリードリヒ・メルツ首相、ドイツ再建への4つの課題

3.     危機に直面して「自動車機器メーカーの再編が加速する」

4.     ユーテルサット、オランジュ・フランス社長を採用、通信事業への転換を促進

5.     フレンチテック:フランスの医療を変えたいコーディング医師、トーマス・クロゼル

6.     フランスと欧州委員会、外国人研究者誘致のために6億ユーロ投入を発表

7.     フレンチテックにおけるシード投資の狂気

8.     Malakoff Humanis 、フィンテック Mon Petit Placement を買収

9.     ステランティスとルノーの幹部「欧州自動車産業の運命は今年決まる」

10.  ペリエをメイン産業とするヴェルジェーズの町、その供給源がなくなる未来を恐れる


1.     防衛:ユーテルサットが欧州の主権にとって不可欠となった経緯


Eutelsatは、ヨーロッパのデジタル主権において中核的な役割を果たしており、特にウクライナでの危機的状況においてその重要性が増している。Starlinkのサービス停止リスクが露呈する中、Eutelsat安全かつ迅速な接続性を約束し、LEO(低軌道)衛星ネットワークを通じた独立した欧州の通信インフラの提供を掲げている。
同社は、Starlinkの供給減少に対応するために、ウクライナに最大1万台の端末を迅速に提供できると表明しており、すでにドイツの流通業者との契約も保有している。
OneWebの信号は、フランス軍によって安全な通信への統合テストが行われており、軍事契約の獲得が期待されている。ユーザー数の急増により、NATOフランス軍も今や民間の衛星サービスを必要としており、特にノルウェーバルト三国ポーランドなどの北欧・東欧諸国は、地上静止衛星では不十分なため、LEO通信の需要が高い。
フランス政府は、Eutelsatを国家プロジェクトとして強力に支援しており、同社は欧州版通信衛星コンステレーション「Iris²」の中核を担っている。この計画には100億ユーロ超の投資が予定されており、うち66億ユーロ欧州委員会が負担し、残り40億ユーロEutelsatSESHispasatなどの民間事業者が出資する。
「Iris²」コンステレーションは2テラビットの通信容量を持ち、そのうち25%が政府用途に確保される予定である。
ただし競争は激化しており、Amazon120億ユーロ超Kuiperに投資するとしており、SpaceXも同等の金額をStarlinkに投入済みである。

💡 解説

7135基のLEO衛星でインフラを形成するStarlinkと比較して648基のLEO衛星によるOne Webではウクライナでの戦場地域や都市部での通信カバレッジが限定的で、完全な代替となりうるのかは疑問だが、プランBになりえる。
その点、トランプ政権発足以来、欧州版通信衛星コンステレーション「Iris²」は欧州の主権に不可欠。その中でEutelsatは中核的な位置にあり、同社以外に100億ユーロ以上の投資の恩恵を受けるのはAirbus、Thales Alenia Space、アリアンスペース、ドイツやルクセンブルグの衛星通信企業であるOHB SEとSES.
290基の衛星で構成されるIris²は2025年に初期サービス開始、2030年に完全な政府サービス提供開始予定について順調なスタートを切っているが、EUの予算は2028年から2035年にかけて段階的に拠出される予定であり、民間企業の投資も後半に集中する計画である。その点、今後の予算確保や運用・技術的課題の克服が成功の鍵となる。特に、ユーテルサット、SES、ヒスパサットの3社が予定通りの資金を用意できるかどうかが注目される。


2.     フリードリヒ・メルツ首相、ドイツ再建への4つの課題


フリードリッヒ・メルツ69歳で首相に就任し、かつての産業大国ドイツが揺らぐ中、政権の舵を取ることとなった。5月初旬に連立協定に署名し、ベルリンで正式に就任した。行政経験はなく、彼には4つの重大な課題が突きつけられている。
第一の課題は、国民の信頼回復である。危機管理に対する国民の満足度は2020年から2024年にかけて63%から23%に急落した。賃金は上がっているにもかかわらず、家計消費は伸び悩み、企業も投資を控えている。
第二の課題は経済再建である。2025年には3年連続のゼロ成長が見込まれており、これは1949年以来初である。メルツは5000億ユーロ規模の基金を創設し、防衛支出の制限を撤廃することで対応しようとしている。この政策は2026年0.5%の成長を生む可能性がある。一方で、ドイツの潜在成長率2015年の1.5%超から低下し、2029年まで年間最大0.3%にとどまる見通しである。
第三の課題は極右AfDの台頭を食い止めることである。AfDは支持率26%に達し、与党のCDU/CSU(24%)を上回った。メルツは国境管理の強化不法移民の送還を公約しているが、これには欧州連携が不可欠であり、実現は容易でない。
第四の課題は国防体制の立て直しである。ドイツは米国への依存から脱却し、自主的な安全保障能力の強化を目指している。3月には国防予算の制限が解除されたが、兵員不足装備の不十分さが依然として問題である。ボリス・ピストリウス国防相は、ドイツが2029年までに「戦争に備える体制」を整える必要があると警告している。この年がロシアの軍事的脅威が現実になる可能性のある節目とされている。

💡解説

メルツ首相は行政経験が少なく、官僚機構や連立パートナーとの連携がうまくできるかが成功の鍵となる。他方、AfDを封じめるについては、以前とはあまりにも極端な移民政策をとると、既存のリベラル層の離反を招くリスクがある。
5000億ユーロ規模の復興・成長基金をどこまで早く運用できるかが、ドイツ経済の今後の成長率の向上の鍵となるが、そこで非常に官僚的と言われる行政の簡素化を達成できるか、また労働市場・税制の構造改革が必要になる。
国防体制の2029年までの再構築は現実的だが、兵員の確保や産業の協力が前提。国内の反軍事的世論が障壁になる可能性がある。


3.     危機に直面して「自動車機器メーカーの再編が加速する」


自動車部品業界は、生産量の減少利益率の低下、そして中国からの競争激化という三重苦に直面しており、Roland BergerLazardによる調査では、その深刻さが明らかとなっている。
コロナ禍以降、部品メーカーの収益性は回復しておらず、業界はスタグフォーメーション(停滞と構造変化の同時進行)の状況にある。世界の新車販売台数は2028年になってようやくパンデミック前の水準に戻るとされ、年間1,000万台過剰生産能力が発生し、2020~2030年の累計では1億1,100万台に達する見込みである。
この影響で、部品メーカーの利益率(EBIT)は7~8%から4~5%へと低下し、投資余力が著しく損なわれた。さらに、世界の主要サプライヤー上位25社のうち40%投資不適格(投機的)と格付けされており、これは医療技術・一般産業の5%と比べて深刻である。
また、電動化への投資も期待外れとなった。2030年における完全電気自動車の販売比率は41%と予測され、これは2023年時点の予測より12ポイント低い数値である。中国企業は24~30か月という短期間で新モデルを開発しており、従来の欧米メーカーの約2倍のスピードである。
このような状況下、業界の再編は加速しており、工場閉鎖スピンオフが進む。例えば、Continentalタイヤ事業に集中し、BorgWarnerエンジン関連事業を分離した。
最後に、企業は中国市場への接続を模索している。中国は自動車革新の中心であり、ForviaValeoのように中国での契約獲得が鍵となっている。RenaultのエンジンスピンオフであるHorseには、中国のGeelyが資本参加しており、これは今後のモデルケースとなるだろう。

💡 解説

サーマルカーからEVへのシフトが起きている中、部品メーカーは、従来の内燃機関(ICE)関連部品からEV関連部品への構造転換をいかにスムーズに行えるかが経営課題となっている。EVシフトに成功・進行中の企業としては、BoschのEV向け駆動モジュール、インバーター、電動ステアリング。Valeoの電動パワートレイン、48V電動モーター、ADASセンサー分野への転換。また、Forviaの水素燃料電池、電子制御ユニット(ECU)、先進運転支援へのシフトが例として挙げられる。
また、トランプの関税は発表以降、アメリカでの生産比率を早期に挙げられるかも重要で、最近ではBoschが、2026年までに30億ユーロの半導体投資を計画、米国カリフォルニア州ローズビルに15億ユーロを投じて新たなウェーハ工場を建設中だ。
Michelinも、米国での投資を増加させ、2024年までに米国市場の需要の70%以上を現地生産で賄う計画だ。また、電気自動車で先行している中国への進出や中国の技術の取り込みも喫緊な経営課題だ。ルノーは中国市場での提携で吉利(Geely)や東風汽車(Dongfeng)と組み、EVやハイブリッド車の開発を進めている。また技術協力では中国の理想汽車(Li Auto)や小米(Xiaomi)と組んでいる。
ステランティスは中国市場でEVスタートアップである零跑汽車(Leapmotor)に15億ユーロを投資し、20%の株式を取得した。