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フランス欧州ビジネスニュース2025年5月12日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年5月12日(フリー)

1.        原子力:フランスの放射性廃棄物地層処分プロジェクト、費用にインフレ 

2.        ダノン 、アメリカの特殊栄養会社ケイトファームズの株式過半数を取得

3.        5月の祝日や連休続きで電気料金が急落

4.        暖房:エンジーとダルキア、パリ市の公共事業権委託を競う

5.        原子力:EDF、チェコDukovany新設原発で不公正競争を訴え、競合韓国企業KHNPの契約締結を仮差し止め

6.        フランスの暖房大手アトランティック、苦境に立たされる

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8.        解説記事・中小企業・中堅企業が経済混乱の中でも回復力を維持できる理由

9.        高級志向、顧客体験、旗艦店…50周年を迎えたZara、ファストファッションの新たな参入者に抵抗

10.  ミストラルAI、オルヴィッド、レヴィア…アメリカの技術に代わる確かな選択肢を提供している欧州企業


1.        原子力:フランスの放射性廃棄物地層処分プロジェクト、費用にインフレ

 
フランス国立放射性廃棄物管理機関(Andra)は、非リサイクル放射性廃棄物83,000 m³を地下500 m深に貯蔵する計画の「Cigéo」処分場について、その建設・運用費用を2012年基準価格で26.1 億~37.5 億ユーロと再評価した。2023年末の経済条件を反映すると、この額は33~45 億ユーロに拡大し、2016年の政府見積もり25 億ユーロを大幅に上回っている。この増額は建設リスクの引当や税負担変動に伴う7.4 億ユーロ分を含み、電力大手EDF、原子力機構CEA、核事業会社Oranoの負担となる。プロジェクト総額の25~30%を占める第一期工事を皮切りに、120年にわたる運用費用が発生する。Andraは既に3.8 億ユーロのコスト最適化を実施済みで、新たに3.6 億ユーロ分の削減案を提示しており、廃棄領域の延長や安価な建設資材の活用などで総費用を25 億ユーロに近づける計画である。

💡 解説

Andraの最終処分場についての新たな建設・運用費用は実際に数字を分解して見ると規模感が掴めて分かりやすい。

CIGEOに格納されるフランス人一人当たりの放射性廃棄物

CIGEOのHPによると、フランスで現在まで蓄積された放射性廃棄物の総量はCIGEOが格納できる83,000 m³の半分。フランスの2023年の人口6900万で割ると一人当たり0,6dm3 (=41500m3/6900万人)。ということは現在までの原発、防衛、医療あらゆる産業の放射性廃棄物量がフランス人一人あたりで10センチ四方のブロックにも満たない。そういう意味でCIGEOプロジェクト自体が巨大(2000のサッカーグラウンド相当の貯蔵量)に見えても、国民一人あたりに直すとフランスの原子力の歴史60年間超の廃棄物量は相対的に見るとそれほど多くない。
事業者にかかるコストをフランス一人当たりで計算してみると

今回インフレで上昇した建設と運用コストは全て原子力事業者(EDF、CEA、Orano)の負担で賄われるが、この事業者が全て国の機関(CEA)や国有化(EDF、ORANOは10%の株式のみ民間でJNFLと三菱重工保有)されている意味では国民当たりのコストに直して考える見るのも妥当だ。最大の見積もりをフランスの2023年の人口6900万で割ると一人当たり652ユーロ (=45 億ユーロ/6900万人)であるが。これは新たな国民の負担ではなく、既に電気料金や税金などで賄われ、事業者が今後120年に渡り負担するものである。


2.        ダノン 、アメリカの特殊栄養会社ケイトファームズの株式過半数を取得


ダノン社は、アメリカの植物由来有機素材を用いた医療用栄養食品を手掛けるKate Farms社(2012年創業)への過半数出資契約を締結したと発表した。出資比率や取引金額は非公開だが、同社の最高経営責任者であるブレット・マシューズ氏がダノンの北米医療用栄養部門の会長兼最高経営責任者に就任し、Kate Farms経営陣は引き続き少数株主として参画する。取引の最終完了は規制当局の承認など通常の条件を満たすことが前提となっている。

💡 解説

Kate Farmsの年間売上高は約7,370万ドルと推定されており、従業員数は254人。2022年にはシリーズCの資金調達ラウンドで7,500万ドルを調達し、これまでの累計調達額は1億9,900万ドルに達している
 
Kate Farmsの主な競合企業には、Orgain(推定売上高6,390万ドル)、Soylent(同1,580万ドル)、Huel、SlimFast、Ample Mealなどがある。これらの企業も植物由来の栄養補助食品や食事代替製品を提供しており、Kate Farmsと同様の市場をターゲットとしている。
Kate Farmsは、乳製品、グルテン、大豆、ナッツを含まない有機成分を使用した製品を提供しており、医療機関や個人向けに販売されている。これらの製品は、消化吸収が困難な患者や特定の健康状態にある人々の栄養補助として利用されている。
ダノンによるKate Farmsの買収は、アメリカの医療栄養市場におけるダノンの戦略的拡大を示しており、今後の成長が期待される。


3.        5月の祝日や連休続きで電気料金が急落


フランスでは、2024年7月以来初めて卸電力市場の取引価格がゼロユーロを下回り、翌日市場(日次)の平均価格が1メガワット時あたり–1.05ユーロとなった。これは大規模火力発電所の稼働抑制と、5月の連休中に工業・商業部門の消費が大きく落ち込んだこと、そして14ギガワットを超える太陽光発電量(3月の最高記録18ギガワットに迫る)という、需要の低迷と供給の過剰が同時に生じたためである。
負の価格はこれまで時間帯単位で発生していたが、全取引日の平均価格が負となる「日次」での現象に拡大している。エネルギー規制委員会の報告によれば、2022年には102時間(全体の1.2 %)だった負価格時間が、2023年には147時間(1.7 %)、2024年には359時間(4.1 %)に急増した。これにより、2024年上半期だけで生産者の損失は約8 千万ユーロに上った。
さらに、2025年に追加で5ギガワットの太陽光発電容量を導入する計画があるため、こうした供給過剰は一層深刻化する恐れがある。政府は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が負価格時にも発電を続けさせることで需給ひっ迫を助長しているとして、買取条件の見直しを実施し、ネットワークへの対応を促す制度改正を行った。

💡 解説

新エネルギーが需要を大きく超えて供給されて発生する負価格による損失はこれから新エネルギー業者の倒産、また送電網を管理するRTEと配電を管理しているENEDISの追加負担にもなる。そういう意味でフランスの今後の国家エネルギ戦略(PPE)の発表を年末までに遅らせた政府の動きが益々注目されている。