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フランス欧州ビジネスニュース2025年10月6日(フリー)

フランス欧州ビジネスニュース2025年10月6日(フリー)
仏サイバーテック新興企業のFiligran

1.        ベルリンとエネルギー:現実政治の復活

2.        洋上風力発電:EDFとTotalEnergiesの英仏海峡における提携というクレイジーなシナリオ

3.        「我々は未知の領域にいる」:スペインの停電、専門家にとって依然として大きな謎

4.        トータルエナジーズのバッテリー大手、サフトが工場市場に参入

5.        「ヨーロッパはあなたの故郷です」:ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏、欧州テクノロジー起業家確保への積極的なアピール

6.        ピクニック、「クイックコマース」バブルの生き残り

7.        デンマークで、欧州のエネルギー戦略の中心となるガスプラットフォームが復活

8.        レアアースのリサイクル:フランスは先頭に立つことを望んでいる

9.        アフリカの市場に失望、フランスの乳製品大手Bel、アジア征服を加速

10.   仏サイバーテック・フィリグラン、フランスのサイバーセキュリティ業界で最大の資金調達ラウンドを獲得


1.        ベルリンとエネルギー:現実政治の復活

ドイツ産業の失速と高止まりするエネルギー費用を受け、メルツ首相は産業電源の柱をガス火力に戻す決断をしている。ベルリンは2030年までに20GWの新設を掲げ、入札に補助を付けて系統の供給安全を優先する運転を想定している。原子力は推進せず、ブリュッセルでは他国の原子力計画を妨げないよう独の立場を「中立化」している。一方、老舗メーカーの倒産やVolkswagenの3万5,000人削減(2030年まで)など雇用悪化が進み、原因の中心はガス・電力価格である。
水素対応ガス火力」の看板は、コストが極めて高いグリーン水素の前提が崩れ現実味を失っており、化石ガスを明示的に柱に据える方針に転じている。欧州委員会JRC研究所2030年時点の調整力不足を警告しており、独の方針は欧州全体の電力安定にも寄与し得る。
政府は「Reality check」を掲げ、レイヒ経済相が所管する報告(2025年9月)で再エネ80%(2030年)は「可能だが高コスト」とし、洋上風力目標の調整、小規模PVの固定価格や負価格時の補償の縮小、建物エネルギー法の緩和、CCSを「優先公益」に格上げする修正を進めている。ただし定量は乏しく、政策は曖昧さを残している。
メルツ氏はEU規制過多を批判し権限の一部回収を主張する一方で、運輸・建物に適用するETS拡張(2027年)は支持している。だが生産拠点の海外流出と雇用蒸発は続き、世論調査でAfDが伸長する中、独は失敗の余地がない。フランスが財政・規制論争に沈む間、独はガス火力中心の現実路線へ舵を切っている。


2.        洋上風力発電:EDFとTotalEnergiesの英仏海峡における提携というクレイジーなシナリオ
 
TotalEnergiesがノルマンディー沖の洋上風力「Centre Manche 2」を落札し、EDFの隣接計画を揺さぶっている。事業規模は45億ユーロ、設備容量は1,500MWフラマンヴィルEPRに相当する。だが提携相手のRWEが仏洋上から撤退したため、TotalEnergiesとEDFの提携が「自然な選択肢」であり、短期に協議入りの見込みである。出資変更には産業・エネルギー省の承認が要るが、EDFAPE(国有持株庁)はコメントしていない。今回の裁定は、CRE格付けでEDFが上位だったにもかかわらず、Bayrou政権が雇用保護と仏市場の多様化を優先した「政治判断」である。隣接のCentre Manche 1は、金利上昇・資材高・供給網逼迫でコストが30~40%膨らむ一方、落札単価が44.90ユーロ/MWhと極めて低く、最終投資判断は不可の情勢で、着工は2029年以降、運転開始は2032年が最速となる。今回TotalEnergies66ユーロ/MWhで落札し、EDF63.5ユーロ/MWhだったとされ、両社が組めばCM1の実質売電単価を引き上げて採算を平準化できる可能性がある。EDFの他案件も遅延が目立ち、Courseullesは基礎施工の問題で3年遅れ、ダンケルクは工事開始2028年、運開2032年で公式計画から4年のスリップが見込まれる。EDF Power SolutionsのCSEは国の決定への不服申し立てを求め、仏オフショア部門200~300人の雇用維持を訴える。調達面では、TotalEnergiesSiemens Gamesaの 21.5MW級タービンを前提に「欧州サプライヤー優先」を掲げる一方、EDFCM1中国製タービンも選択肢としていた。両社が組むならこの点が最大の火種となる。相手が見つからない場合、TotalEnergiesは単独投資で仏オフショア市場参入を果たす構えである。


3.        「我々は未知の領域にいる」:スペインの停電、専門家にとって依然として大きな謎
 
2025年4月28日のイベリア半島大停電について、欧州委員会が委嘱した45人の専門家パネルが予備報告を公表し、原因は「過電圧の連鎖」であると指摘している。停電は12時33分スペインポルトガルの電力が「ゼロ」になり、地域は最大約12時間まひした。世界でも前例がないタイプの事象であり、専門家は引き続き解析を進め、結論と提言は2026年初頭に示される予定である。報告は、異常がグラナダセビリアバダホスと南部で発生し、当初は約500MW規模の局所的で比較的小さな逸脱だったものが、周波数・電圧の揺らぎが段階的に拡大して全土へ広がった経緯を再構成した。春の平常気象下でスペイン系統が変動を吸収できなかった理由はなお不明で、緩衝装置や運用体制の弱点が焦点となっている。マドリードが夏前に出した暫定報告では、送電系統運用者REE需要・供給予測の誤り、電力会社側のリスク過小評価未申告の発電停止、さらに電圧変動を和らげるはずの火力発電の待機不足が示唆された。今回の予備文書も、スペイン側からのデータ収集が複雑で一部欠落情報(停電前の停止記録など)が残る一方、ポルトガルからの提供は概ね円滑だったと明記している。報告書は「再発防止に向け学ぶべき点の特定」が目的であり、最終報告で一次原因の特定系統安定化策が示される見通しである。